性染色体の進化についての話が中心で面白い本だった。有性生殖は色々な生物で広く見られるけど、性決定や性分化の仕組みが種によって全然違うというのは改めて考えると不思議なことだ。これまでXY型やZW型の染色体構成を持つものだったり、温度依存的な性決定をする種がいたり、性決定遺伝子とか哺乳類のゲノムインプリンティングとかいった個別の話題は確かに知っていたのだけど、ではそれらを踏まえて生物の性はどのような進化を遂げてきたのかということについてはよくわかってなかったので考えるいい機会になった。それでもって、つまるところまだまだ生物の性よくわかってないことが多いって感じなのがすごい。これからまだまだ新たな発見があるんだろうなという期待がもてる。
特に面白かったのは日本の南西諸島に生息するトゲネズミの話だろうか。この本は冒頭でヒトのY染色体が今後消失する運命にあるかもしれないというジェニファー・グレイブスの話から入るのだが、そのように実際にY染色体を失っている種がアマミトゲネズミとトクノシマトゲネズミだという。オキナワトゲネズミはXX/XY型なのに対してこれらの種は雄も雌もXO型で、精子形成や雄決定に必要な遺伝子がY染色体から他の染色体に転座して雄を実現していると考えられている。
従来の性染色体が失われたとしても、新たな性決定遺伝子を獲得した染色体が新たに性染色体となる。このような性染色体の移り変わりが両生類や爬虫類の進化で繰り返し起こってきたため、これらの種では性染色体の起源が多様でXYやZW型の染色体構成が混在している、という話らしい。
一方で、アカゲザルとヒトのY染色体を比較したところ、Y染色体の最も古い領域の5つの遺伝子(性決定や精子形成関連)は3億年以上の進化時間を経ても保存されていていることがわかっていて、Y染色体が退化の一途を辿っているとはいえそう簡単に消失するようなものでもないと述べられている。そのようなことを踏まえると、南西諸島の小さな島々のトゲネズミのY染色体消失はボトルネック効果の産物であるという説明は正しいように思える。
人類も絶滅寸前まで数を減らしたり火星とかにごく少数が移住してそのまま何百万年も経過すると、トゲネズミのような種分化が起こるのかなぁと色々妄想が捗った。あとやっぱり発生とかちゃんと勉強しないといけないなと思いましたまる