『協力と裏切りの生命進化史』を読んだ

読んだ理由

  • Kindleのセールで見かけた
  • 主題が進化の大きなテーマである協力と裏切りなので面白そう

目次

  • 第1章 生命とは何か
  • 第2章 単細胞生物からヒトへと至る協力の歴史
  • 第3章 協力を維持するしくみ
  • 第4章 私たちは何ものなのか

感想

進化生物学者である著者が「生命とは何か」という問いを出発点に生物進化における「協力」を考える本。著者の実験で、RNA複製システムによる非生物の進化実験を行ったところ、生物進化に見られるような複雑化が見られず、むしろ単純な方向に洗練されていくことが観察された。

生命進化に見られる共通のパターンが「協力」だという。

原始生命についてはまだよくわかっていないが、DNA、RNA、タンパク質、脂質膜などの分子間の協力によって細菌が進化したと考えられる。細菌は現在地球上で最も繁栄している生物といえるが、細菌はエネルギーの問題でそれ以上大型化できないジレンマを抱えている。細胞内のエネルギー輸送は濃度勾配による拡散に頼っており、エネルギーとなるATPの生産は細胞膜で行われるため、膜面積を増やそうとするとそれ以上に体積が増えてしまうため、エネルギー足りなくなってしまう。真核細胞がそうであるように細胞内にエネルギーを輸送するためのタンパク質を作ればこの問題は回避できるように思われるが、そのためには設計図であるDNAを大きくしなければならない。しかし、DNAのサイズは体の大きさに規定されるため、DNAを大きくするためには体を大きくしなければならないというジレンマを抱えることになる。

そこから、細胞内に取り込んだ細菌と取り込まれた細菌の細菌同士の協力によって真核生物が進化した。まず細胞壁を失ったものの一部で細胞壁に代わる細胞骨格を持つものが進化し、これによって他の細菌を取り込むことができるようになった。さらに、取り込まれた一部の細菌が分解されずに細胞内にとどまったことにより、細胞内共生を始めるものもでてきた。エネルギー生産を担うミトコンドリアや葉緑体の細胞小器官を手に入れたことで、真核生物はその豊富なエネルギーで大型化・複雑化することが可能になった。単細胞真核生物は大型化についてはほとんど制約はなくなったが、今度は複雑化したことによって増殖が大変な仕事になってきた。分裂は長時間化し、DNAを過不足無く分配する間、新たにタンパク質を生産することもできないため、増殖が新たな複雑化の天井になったことになる。

その問題を解決したのが、真核細胞同士の協力による多細胞生物の進化だ。増殖を担う生殖細胞とそれ以外の機能を担う体細胞による役割分担が見られる。ボルボクスのような比較的最近進化したと思われる生物では、生殖細胞とそれを守る体細胞の2種類からなり、消化管を持つ線虫では100種類に分化している。細胞の分化と専門化によってさらなる大型化が可能となった。大型の動物としてまず現れたのが無脊椎動物で、外骨格で体を支えているが、可動域の狭さや体内の輸送はやはり拡散に頼っており、細菌と同じようにさらなる大型化の壁があった。次に出現した脊椎動物では、体の中から背骨で体を支え、さらに血管を配備して隅々まで酸素を運べるようになった。

生物が大型化した弊害として、成熟するのに時間がかかるようになった。ここで動物の社会性の話が出てくるようになり、オオカミ、ライオン、アリのような血縁個体での協力の話と、ヒトに顕著に見られる非血縁個体との協力の話になる。

このような協力の進化を促してきたのが、「裏切り」ではないかという。生物進化の各段階の協力関係で裏切り者は出現し、協力関係が脅かされてきた。協力を出し抜く裏切りとそれに対する対抗戦略による、絶え間ない進化的軍拡競争が、通常は単純化へ向かう進化とは逆に、複雑化する方向を作り出した。さらに、裏切りは進化を促進するだけでなく、協力の価値を問い直すブレーキの役目もあるという。アミメアリは産卵する裏切りワーカーが増えて、ついには女王を駆逐してしまった例だが、日本全国に分布していることからみても、女王だけが生殖するという協力関係が必ずしもアリの繁栄に必須ではないことを示している。

現在の地球上の個体数を推定すると、生物が複雑になっていくにつれて個体数が少なくなる関係が見られる。ウイルスは一般に生物ではないとみなされるので、地球上でもっとも繁栄しているのは細菌ということになる。自然選択の原理からみても、最も単純な構造で増殖速度の速い細菌が選択の勝者であることは特段不思議ではない。この単純化のレースから抜ける方法が協力だったのだ。複雑化した生物とは、協力してスケールを大きくすることによって勝負のルールを変えた生き物だということができる。

なぜ細菌以上の単純な生物が存在しないのだろうか。細菌は単純とは言え、構造をよくみると信じられないくらい複雑なのだ。これは細菌以前の原始生命はどこに行ったのかという問いと等価だ。これは細菌との競争に破れて絶滅した説や、生育できる環境がなくなった説、ウイルスがそれだという説、地球外からやってきたとするパンスペルミア説などがあるが、まだまだ謎が多いようだ。この問いについて、著者のRNA複製システムの研究ではRNA同士の協力がまだ確認されていないが、あと何年か植え継げば、協力関係を確立して複雑になったRNAが進化してくるかもしれないとしている。

協力は進化の大きなテーマだが、この本では前生物的進化の研究者が書いているので、生物進化の初期の話が多く、面白かった。ちょうど生物学の教科書をおさらい中で、細胞生物学、分子生物学当たりの話を並行して読んでいたので理解が進んだ。原始生命への興味が尽きないし、これからの進展が楽しみになってしまった。

 

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