『進化と人間行動』長谷川寿一・長谷川眞理子
読んだきっかけ
『進化心理学を学びたいあなたへ: パイオニアからのメッセージ』を読んでいる途中に、進化生物学や進化理論の基本を押さえたほうが面白そうだと思った。この本は、この分野のド安定の教科書ポジションらしく、実際に教養課程向けの教科書として書かれたものであり、目的に合致していた。
目次
- 第1章 人間の本性の探求
- 第2章 進化の概念
- 第3章 遺伝子と行動
- 第4章 「利己的遺伝子」と「種の保存」
- 第5章 ヒトの進化
- 第6章 血縁淘汰と家族の絆
- 第7章 血縁者内の葛藤
- 第8章 協力行動の進化
- 第9章 雄と雌の葛藤――性淘汰の理論と証拠
- 第10章 ヒトの繁殖と配偶システム
- 第11章 ヒトの配偶者選択・配偶者防衛
- 第12章 再び遺伝と環境,学習,文化
感想
進化に関する基本概念がわかりやすく解説されていた。ダーウィンも進化も自然淘汰も馴染み深い言葉であるだけに、曖昧な理解が混乱のもとになっている気がしていて、正確に理解しておくことが重要かなと感じた。「適者生存」や「種の保存」などの誤ったイメージは未だにそこら中に溢れているし、双生児研究でよくでてくる遺伝率はまさに間違った理解をしていたので、考えの整理に大変役にたった。
進化の視点を人間行動に適用するというアイディアは、「ヒトの心が何の目的のためにデザインされたのかを知ることによって、われわれの心に対する理解が大幅に進むだろうと期待するのは、当然のことではないだろうか」とジョージ・ウィリアムズが述べている通りのように思う。生物については、進化理論から導かれた検証可能な仮説が実際に見られるかという視点で多くの知見が得られてきた。生物の行動も進化で形成された形質の一つである。そしてこれは人間も例外ではない。
進化アプローチの有用性について、進化心理学の創始者であるトゥービーとコスミデスは進化理論を未知の土地を探検する時の地図であると例えていて、自分が進化アプローチに抱いたイメージもまさにこれと一致する。脳神経科学などの至近要因を解明する道具も揃ってきているので、進化理論のような究極要因を扱う地図的な視点があることで心の研究は効率よく知見を得ていくのではないかと思う。