『進化と人間行動』長谷川寿一・長谷川眞理子
『進化心理学を学びたいあなたへ: パイオニアからのメッセージ』を読んでいる途中に、進化生物学や進化理論の基本を押さえたほうが面白そうだと思った。この本は、この分野のド安定の教科書ポジションらしく、実際に教養課程向けの教科書として書かれたものであり、目的に合致していた。
進化に関する基本概念がわかりやすく解説されていた。ダーウィンも進化も自然淘汰も馴染み深い言葉であるだけに、曖昧な理解が混乱のもとになっている気がしていて、正確に理解しておくことが重要かなと感じた。「適者生存」や「種の保存」などの誤ったイメージは未だにそこら中に溢れているし、双生児研究でよくでてくる遺伝率はまさに間違った理解をしていたので、考えの整理に大変役にたった。
進化の視点を人間行動に適用するというアイディアは、「ヒトの心が何の目的のためにデザインされたのかを知ることによって、われわれの心に対する理解が大幅に進むだろうと期待するのは、当然のことではないだろうか」とジョージ・ウィリアムズが述べている通りのように思う。生物については、進化理論から導かれた検証可能な仮説が実際に見られるかという視点で多くの知見が得られてきた。生物の行動も進化で形成された形質の一つである。そしてこれは人間も例外ではない。
進化アプローチの有用性について、進化心理学の創始者であるトゥービーとコスミデスは進化理論を未知の土地を探検する時の地図であると例えていて、自分が進化アプローチに抱いたイメージもまさにこれと一致する。脳神経科学などの至近要因を解明する道具も揃ってきているので、進化理論のような究極要因を扱う地図的な視点があることで心の研究は効率よく知見を得ていくのではないかと思う。