初歩からの無職

反出生主義が面白い

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反出生主義がとても面白そうだ。

ショーペンハウアーが最も有名らしいけど、最近だと南アフリカの哲学者、デイヴィッド・ベネターの『生まれてこなければよかった』と言う本が出版されて議論されているらしい。邦訳本は今年の11月に出版されたばかりでAmazonに表紙すら登録されていない。できればKindleで読みたいので、Kindle化リクエストみんなよろしくお願いします。

まだ書籍を入手していないのでアレだけど、森岡正博氏の紹介しているものを見る限り、pleasureとpainの存在について良いこと・悪いことは対称性を持っているが、それらの非存在については非対称であり、選考充足を考えると完全に存在しない方が論理的に良い選択になっちゃうよね、という話のようだ。勘違いしがちなのは人道を無視した虐殺などを肯定しているわけではなく、あくまでも人類の効用を最大化しようという意図のように思える。なので個人レベルで子供を産まないという反出生主義になっているんだろう。

とりあえず今後是非本を手にとって読みたい一冊に加わったレベルなのだけど、この反出生主義が投げかけるものはとても興味深い。

心理学領域では社会因性の抑うつ症状について、狩猟採集時代に適応した人間の根源的願望が近代文明社会に適応するようにはできていないところから生じるという説明がされている。根源的願望は遺伝子選択原理で形成されており、なかでも「生きがいのある物語」選択の原理は死を表象できるまでに発達してしまったヒトがなんとかお茶を濁すために考案したテクニックのように思える。近代〜現代あたりで人々が共有してきた伝統的な物語の喪失という社会因が根源的願望を妨げ精神病理を引き起こすというわけだ。

一昔前まで抑うつ傾向のある人は現実をネガティブに歪めて認知している説があったが、現在ではどうも精神的に健康な人ほど現実をポジティブに歪んで認知しているようだ。これをポジティブ・イリュージョンという。抑うつ傾向のある人は現実を正確に捉えているがゆえに精神を病むというわけだ。

そんなわけで、反出生主義は物語を信じられる社会適合サイドの人間には脅威に感じる人もいるかもしれないが、社会不適合サイドの人間にはひどく優しいものに感じられるんじゃないだろうか。反出生主義はポジティブサイドの健康的な人間にもネガティブサイドが抱えている問題を突きつけるものになりうるんじゃないかと思っていて、正直に言うとお前らもこっちきて一緒に悩むことになっちゃったなというところが痛快に感じるところかもしれない。

ポジティブイリュージョンがうまく機能しない人は個人の効用を最大化するに当たって、それが幻想だと気づいている矛盾を抱えながらポジティブ側に認知を寄せていく必要がある。このなんとかお茶を濁していくスタイルにどこかもやっとするものがあったりもするのだが、反出生主義がいうところは全体の効用を最大化しようと思ったら人類は滅亡すべきだというところに帰結している。人類のより良い未来のために人類を滅ぼすって悪役っぽくてなんとも物語じみてるではないか。自分自身と人類のより良い選択が同じ方向を向いていてそれは論理的に正しいかもしれない、というところにようやくベットしがいのある物語が現れたのかもしれないということを感じたわけだ。あとは一抹の望みをかけていた異世界転生と違ってあくまで現世の生き方にフォーカスしてる点で健康的な気もする。

反出生主義に関する有力な反論の登場にも少し期待している。ベネターが勇者の出現を待つ魔王を演じることになるのもまた物語じみてる。

と言うわけで色々ワクワクしてとても興味深いのだが、加えてこの時期に森岡氏の以下の文を読んだのは非常に幸運だった。

ベネターは言う。 人類の絶滅について言えば、人類の絶滅は引き延ばされてはならず、むしろ早く起きれば起きるほど良いと考えられる it would be better if this occurred sooner than later (p.194)。しかしながら、最後の世代が負うことになる害悪は、もっともシビアなものとなるであろう。なぜなら彼らは、人類の未来に向けた希望や欲望というものを持つことができず、もっとも極端な形でそれを遮断されるからである。しかも彼らは、解体した社会システムの中で暮らさなくてはならない。 若い人たちはもう存在しないから、誰も助けてくれないのである。 「生まれてくること」は望ましいのか:デヴィッド・ベネターの『生まれてこなければよかった』について

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