『無気力なのにはワケがある』学習性無力感理論について

Kindle月替わりセールで『無気力なのにはワケがある』という本を読みました。セリグマンの学習性無力感理論についての本で、行動主義から認知革命を経た心理学の流れに沿って理論がどのように変容していったかも捉えることができるいい本でした。学習性無力感理論については大学の授業で改訂後の理論で帰属スタイルに中心に少し触れていた程度だったので、元々のコントロール不能性を学習するという部分について深めることができてよかったなあという感想です。

学習性無力感というのは、大雑把に言えばコントロール不能な状況に陥ると無力感を学習して無気力になってしまうという心の仕組みです。パブロフの犬でお馴染みの古典的条件付けやオペラント条件付けなどの学習という現象を説明し、そこからコントロール不可能な状況で無力感を学習することがセリグマンらによって発見されました。胃潰瘍の程度、癌腫瘍の出現や悪化、免疫系の変化など健康面への影響や、うつ病発症に見られる神経伝達物質の不足も見られることが示されています。

心理学研究がそれまでの主流だった行動主義から心の計算理論を採用した認知心理学へと大きく変化していった認知革命を経て、学習性無力感理論も帰属理論を取り入れて改訂しました。これはそれまで説明がつかなかった個人差を説明するモデルです。より悲観的な方向に原因帰属する人ほど学習性無力感に陥りやすいということですね。

教育心理学の領域では、学業場面において無力感への陥りやすさは目標の持ち方と深く関係しているという主張がされています。目標の持ち方は能力が可変的か固定的かというマインドセットによって決まるとされており、子供は小学校高学年までは能力を努力と同じく可変的と捉える傾向が強いことが確認されており、そもそも学習性無力感に陥りにくい可能性が示されています。

こうした研究を経て、帰属スタイルをはじめとする学習性無力感に陥りにくい傾向の背後にある根本的な特性としてオプティミズムがあるのだという主張がされるようになります。ここは個人的になかなか興味深い指摘なのですが、そもそも先進国にうつ病が増加してきているのは、自己評価の増大と共通認識の衰退にあるとしています。自己評価の増大というのは近代以前と比べて生存という中核的な部分以外まで自己の領域が広がってしまい、たえず自分や他者の評価に曝されながら生きていかなければならないということです。時に人は挫折しますが、そこで精神的な受け皿となるのが共通認識と呼ばれるものです。これは神であったり社会であったりという、自己を超えた物語にあたるものですが、近代化や昨今の社会情勢(アメリカにおいてはベトナム戦争やウォーターゲート事件をセリグマンは挙げています)によってこの受け皿も衰退しているということですね。

現代人はこのような過酷な環境に身を置いているので、共通認識のために生活の中で自分をコミットさせる比重を増やすという方略とオプティミズムを持つべきだというのがセリグマンの主張です。

無気力となる背景理論について理解が深まりましたが、実際にペシミズムを抱えている場合はオプティミズムへの転換はもちろん簡単ではないので、自分の認知を修正するにあたっては臨床心理学的な方略についての理解も深めておきたいなと思いました。本の話に戻ると実験などの説明も丁寧で面白い本だったのでオススメです。

俺はもうダメだ。

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