感性工学が面白そうで来期に授業も取ったので予習がてらメルカリで関連する(安い)本を買いました。この本は感性的な価値のなかでも「かわいい」に着目した一連の研究をまとめた本です。
かわいいが日本発の感性的な価値であるという文化論的な背景の話がなかなかおもしろくて、かわいいという価値に関する記述は、最近FGOでパリピギャルサーヴァントとして華々しくデビューした清少納言が昔書いた『枕草子』まで遡れるそうです。また、ポジティブな意味合いの強い"cute"と、ポジティブな意味もネガティブな意味を併せ持つ「かわいい」との重要な違いは、日本では兼好法師の『徒然草』や岡倉天心の『茶の本』に見られる「未完の美」の思想が根底にあるからではないか、という話のようです。まったく、小学生は(以下略)
形、色などの人工物の属性との関係を解析していく章では具体的にどのような実験設定をするかなどの話が詳細に書かれています。特に主観的な価値を測るものなので、刺激の呈示方法なども工夫しないと意味のあるデータを取るのもかなり難しそうな印象を受けました。例えば、研究の最終的なゴールは「かわいい人工物を構築すること」なので二次元平面上で呈示する実験を三次元に拡張するためにVRを用いたりしています。
筆者の研究では主観的な指標のデメリットを埋める方法として、心拍や脳波などの生理指標も併せて実施しています。これにより、かわいいと評価しているものを提示されているときに実際に心拍数が上がっていることや、かわいい感にはわくわく系かわいいと癒やし系かわいいが存在することが示唆されています。
応用例や「かわいい感性デザイン賞」の作品などの紹介が続きます。感情駆動カメラは脳波から特定の感情を検出するとカメラのシャッターを押すという設計なので確かに原理上可能であり、実際にneurocamなども出ています。工学系の研究は実際の成果物にまで落とし込むところまでやるものもが多くて面白いですね。
人工物の「かわいい」というのを実例に、感性という主観的な価値を系統的に解析して製品づくりに活かす研究ですが、かなり面白い分野で興味が深まりました。これは「バブみ」とかも掘り下げると面白いのでは?と思ったら、すでに先行研究があるらしく、科学の闇の深さを感じる次第であります。