放送大学で開講中の授業の教科書。履修登録はしていないのだけど、今が旬なので読んでおこうと思ってメルカリで買いました。ちなみに5章と6章の市中感染症は岩田健太郎教授が担当する回。
免疫というミクロレベルの話から病原体ごとの感染症、市中、医療現場、社会全体の感染症対策というマクロな視点まで手広く網羅されていて、さすが放送大学の教科書といった感じの内容です。
「感染症成立の三要因」というのが最初に解説されているのですが、言うまでもなくとても重要です。三要因とは病原体、感染経路、宿主の感受性で、これらが3つの要因がすべて揃った時に感染症は成立します。逆に言えば、これらのうち1つでも防ぐことができれば感染症は成立しないということです。これは昨今の情況でも、行政が発表する個々のプランがどの要因へのアプローチなのかを考えるだけでも情報の解像度が格段に上がるので、この点を抑えておくことはとても有用なように思います。
免疫の話がとても面白かったのですが、「はたらく細胞」をアニメで見ていたおかげで学習がスムーズになったと思います。好中球、好酸球、マクロファージ、B細胞やT細胞や樹状細胞など、免疫に関与する個々の細胞達の名前と機能を紐付ける作業だけでかなりしんどいはずなのですが、「ああ、あいつか」と作中のキャラクターでおおよその役割がわかる状態になっていて、さながら「はたらく細胞」の同人誌状態です。メモリー細胞による免疫学的記憶はよくできてるなーと思ったのですが、そういえば作中でもメモリーT細胞が登場していたり、など。
免疫でよくわからなかったのは、既存の有限の遺伝子で新奇に侵入してくる無限と思える様々な抗原に対応する抗体を作り出している点だったのですが、これは免疫グロブリン遺伝子を再構成することによって実現しているようです。免疫グロブリン分子は不変部と抗原に結合する可変部というメカニックな概念図になっていてとてもクールです。う〜ん、語彙力が追いつかず、生物すごいに尽きます。
生物すごいといえば、やはり変異の速いRNAウイルスこそが真に恐ろしい病原体だと考えていたのですが、たとえば細菌では多糖体で体を覆うことでタンパク質抗原のウイルスよりも免疫反応が起きにくかったり、真菌や寄生虫などの同じ真核生物ドメインとなるとヒトと代謝がよく似ているので代謝の差を利用するしかなくなるので創薬が難しかったりと、より複雑な機構を手に入れるにしたがって対処も難しくなっていくのを感じます。
ヒトと感染症の戦いの歴史を見ると、大量の屍の上に築かれた公衆衛生学や疫学の発展でここまで戦えるようになってきたんだなという感慨深いものがあります。同時に、古くは家畜化が結核を人類に持ち込んだり、無駄を削り効率化を図ったことで新興感染症を招くなど、経済合理性だけを追求していくわけにもいかなくなった現実を突きつけられているようにも感じます。平時から遊びを作っておくことの重要性が再認識され、回り回って無職への風当たりがよくなるといいななどと淡い期待を抱いておりますので、何卒よろしくおねがいします。