長いので羊土社のページを参照
前の投稿でも書いた通り最近researchat.fmというバイオ系研究者のPodcastを聞いているのですが、特に論文を紹介する「ガチ回」では耳に入ってくるタームが「知っている」「聞いたことがあるが意味が出てこない」「完全に初耳」という状態です。実は恥ずかしながらCRISPR/Cas9をこのPodcastで初めて知りました。中国の双子の実験などはニュースとして知っていたので、この文字列がすっぽり世界から抜け落ちていたようです。生物学のキャッチアップとして読んだエッセンシャルキャンベル生物学も2011年なのでその頃は発表前だったんですね。CRISPRもそうですが、今までも遺伝子操作の部分についてはブラックボックス的にスルーしてきた部分なので、ここらで遺伝子工学の教科書的なものを一通り読んでおこうと思って買ったのがこの本です。
図解付きの網羅的な解説でとても読みやすかったです。僕はただの引きこもりなので必要はなかったのですが、操作のポイントや注意点も詳しく解説されています。制限酵素で切ったりつないだりする、切断面を揃えるための操作、導入のためのプラスミドやファージなどのベクター、PCRやシーケンシングの進化など、人間はよく考えたな〜の連続です。
一方で、「よし、じゃあいっちょ俺と豚のキメラを作るか!」なんてウェットな実験を個人でやるのはほとんど不可能なので、パーソナルコンピューターの普及によるソフトウェア工学の強みって本当にすごいことなんだなと思いました。家庭用バイオ環境が法的な面でも難しそうですけど、Fablabなどのオープンなスペースでバイオ系の環境もあるみたいなので少し調べてみたいです。
当たり前ですがPodcastを聞いていて「これ進研ゼミでやったやつだ!」となる場面はかなり多くなりました。とはいえ、教科書の文量は一度読んだくらいではなかなか頭に入りづらいのですが、必要なときにレファレンスとして使えるので一度読み切ってしまうと便利です。僕の場合はキャンベルがまさにそれで、「俺はこの単語とかつて出会っている…」という経験がScrapbox上で繰り返されます。
遺伝子工学の歴史を俯瞰すると、制限酵素にしろPCRの耐熱性のDNAポリメラーゼにしろCRISPRにしろ、ファージや極限環境に対するバクテリアの対抗策から人類を大きく進歩させるような技術が生まれているところに少なからぬエモを感じます。人類の幸福を直接向上させるような工学系の話は意義深くて、とても面白いですね。この本を足がかりにもう少し理解を深めていけたらと思います。