第1部 なぜ動機を隠すのか
第2部 日常生活のなかの隠れた動機
図書館で見かけて、ああ脳の文脈でゾウはなんか聞いたことあるワードだなと思ったけどそれはJonathan Haidtの方だった。原題のelephant in the brainはelephant in the roomと掛けられたタイトルで、明らかに存在することは分かっているけれども触れてはいけないタブーが脳の中にあるという意味合いで使われている。
進化心理学とタイトルにあるが、著者二人は別分野の人で、さらに一人はシリコンバレーのエンジニアという少し面白い本だ。なので研究者が研究内容をわかりやすく書いた一般書、ではなく、門外漢が関連資料読み漁って一冊にまとめました、という方が近い。
個人的に不安にさせたのは、「本能」というワードを多用していることだ。今まで何冊か読んできているが、「遺伝」と「環境」、「本能」と「学習」などの単純な対立は生物学的な視座を曇らせるきらいがあるので、この分野で軽々しく使えるものではないという認識なのだが、補足説明も特になく使われている。
内容は自己欺瞞やシグナリングの話が中心で、この辺りの話はまだ詳しく読み込んでいないので次に読むべき本の参考になった。本筋とは違うけれども、スターリンや毛沢東や金一族のような独裁的な指導者と肩を並べてスティーブ・ジョブズが頻繁に例示されるのはちょっと面白くて笑った。
たくさんの文献を集めてきて新たな事実に光を当てるというよりも、自己欺瞞とシグナリングという中核的なアイデアが各分野にどのように表れているかを広く紹介しているような本で、完全にノーアイデアの人が読むなら良さそうだけど、この分野の新たな興味深い考察を求めるのであれば少し文量が多い本になるかなと思った。実際、こんなに頻繁に引用されるならミラーの本を直接見たほうがよいのでは…と思う。
もちろんこれは僕が内容を精査できるほどの知識がないので、専門外の人が書いたという事実によって、内容を担保する権威がなくて身構えてしまうということは否めないのだけど、それでも著者にエンジニアがいたのでエンジニアリングの観点からの考察なども少し期待したのだが、そういうのもあまりなかったのは少し残念ではある。とりあえず、内容についてもう少し掘り下げた本を読みたくなったので良しとする。