『進化論はいかに進化したか』を読んだ

読んだ理由

  • 進化論周りの人間のドタバタ整理
  • 現代進化論に至るまでの流れを把握したい

目次

  • 第1部 ダーウィンと進化学第1章 ダーウィンは正しいか
    • 第2章 ダーウィンは理解されたか
    • 第3章 進化は進歩という錯覚
    • 第4章 ダーウィニズムのたそがれ
    • 第5章 自然選択説の復活
    • 第6章 漸進説とは何か
    • 第7章 進化が止まるとき
    • 第8章 断続平衡説をめぐる風景
    • 第9章 発生と獲得形質の遺伝
    • 第10章 偶然による進化
    • 第11章 中立説
    • 第12章 今西進化論
  • 第2部 生物の歩んできた道
    • 第13章 死ぬ生物と死なない生物
    • 第14章 肺は水中で進化した
    • 第15章 肢の進化と外適応
    • 第16章 恐竜の絶滅について
    • 第17章 車輪のある生物
    • 第18章 なぜ直立二足歩行が進化したか(I)直立二足歩行の欠点
    • 第19章 なぜ直立二足歩行が進化したか(II)人類は平和な生物
    • 第20章 なぜ直立二足歩行が進化したか(III)一夫一婦制が人類を立ち上がらせた

感想

現代進化理論に至るまでの進化論の歴史を概観できる本。現代でも進化論の認識はかなりの混乱が見られるが、歴史を振り返っていくとダーウィンが『種の起源』を発表してからもやはりかなりの紆余曲折を経ている。以下、個人的にためになった部分を書いていく。

自然選択説の盛衰

『種の起源』を科学書として見た場合、3つの主張、すなわち生物が進化することを示したこと、進化のメカニズムとして自然選択を提唱したこと、進化のプロセスとして分岐進化を提唱したことにまとめられるとしている。このうち、進化説と分岐進化説は受け入れられたが、自然選択説はすぐには受け入れられなかったようだ。あんなにシンプルで美しい演繹がー?と個人的には意外なところだったが、粒子遺伝では連続的な変異が説明できなかったり、混合遺伝では変異が薄まるはずであったりと、当時の科学的な知識では確かに説明が難しい観察事実があった。これらはポリジーンやハーディ・ワインベルクの法則で解決されて再び自然選択は地位を取り戻していくが、ダーウィン最大の功績である自然選択(方向性選択)だけが当初受け入れれられなかったのはなかなか意外だった。

『種の起源』への教会の反応

ダーウィン本人の信仰心や、進化論をめぐるキリスト教界の反応もイメージと随分違った。てっきり『種の起源』の発表時にはダーウィンは信仰をすっかり失っていたのだとばかり思っていたが、『種の起源』は神学書としての体裁を最後まで保っていたようだ。ダーウィンは初版のときには字句通りに進化は神が設定したものだと信じていたが、最終版が出るまでの様々な議論を経てダーウィンは信仰を失ったらしい。神学書であるのでイングランド教会も高く評価していたし、オックスフォード論争で有名なオックスフォード主教サミュエル・ウィルバーフォースは論争前に出された書評で『種の起源』の内容を理解し、かなり的確な批判もしており、ダーウィンもそれは認めていたようだ。

「進化」の混乱

ダーウィンの進化論に対する誤解は、ダーウィンに反対していた人々ではなく、むしろダーウィンを敬愛していた人々によって広まってしまったようである。

更科功. 進化論はいかに進化したか(新潮選書) (Japanese Edition) (Kindle Locations 460-462). Kindle Edition.

まるでサークルクラッシャーのようである。現在にも通じることだが「ダーウィンの進化論」とは言っても実際には、ハーバート・スペンサーの進歩の意味合いでの進化であったり、アルフレッド・ラッセル・ウォレスの適応万能主義を指していることがある。

スペンサーは「適者生存」という語を作ったことで有名だが、この語は非常に誤解を招きやすく、実際に社会ダーウィニズムの温床となってしまっている。

ウォレスはダーウィンとは独立に自然選択を発見した人物だが、ダーウィンの死後に敬意を込めて彼の名を冠した『ダーウィニズム』を出版する。

ちなみにウォレスが『ダーウィニズム』を出版したのは、ダーウィンが死んで7年が経った1889年である。ダーウィンの唱えた自然選択説が凋落していく中で、自然選択説の正しさを社会に広めようというウォレスの気概が伝わってくるような本だ。…(中略)…ウォレスにとっては、『種の起源』の初版を出版した頃のダーウィンが、本当のダーウィンだったのだろう。その後、『種の起源』にさまざまな反論がなされ、ダーウィンは考えを少しずつ変えていく。しかし、ウォレスは、『種の起源』に対する反論には根拠がなく、ダーウィンは考えを変える必要はなかったと思っていた。したがって、ウォレスの『ダーウィニズム』の内容は、『種の起源』の初版を出した頃のダーウィンの考えに近いものの、『種の起源』よりも自然選択の重要性を強調したものになっている。

更科功. 進化論はいかに進化したか(新潮選書) (Japanese Edition) (Kindle Locations 703-704). Kindle Edition.

ウォレスの愛が重い。さておき、ウォレスのダーウィニズムはダーウィンの考えとは異なるし、現在の進化生物学の考えとも異なるものだ。進化論自体がごく最近出てきた理論であるのである程度の混乱がまだ残っているのは仕方ないにしても、ダーウィンを敬愛した人々によってなんともややこしい語が作り出され続けているのはなかなか人間味のある話だ。

ハーディ・ワインベルクの法則

ハーディ・ワインベルクの法則は、一度わかってしまえば当たり前で最初はつまらないと思ったと著者も述べて、自分も完全に同じ認識だったのだが、ハーディ・ワインベルグ平衡が成り立っていれば生物は進化しないというのが重要なアイデアだった。ハーディ・ワインベルグ平衡は4つの条件から成り立っているが、そのうちの1つでも満たされなければ成立しない。つまり、4つの条件を破るそれぞれのメカニズムが、そのまま進化のメカニズムになる。ここから遺伝的浮動、自然選択、遺伝子交流、突然変異とおなじみのものが導かれる。

獲得形質の遺伝とラマルク説

獲得形質の遺伝についてもよく整理できた。ラマルクの用不用説は否定されているが、一方でエピジェネティクスなどを見ると獲得形質遺伝してるやんけとなる。最近読む本だとラマルクは過剰に批判されがちだとフォローが入る物も多いが、要はセイヨウタンポポのメチル化に見られる環境要因による獲得形質の遺伝は確かに存在しているが、ラマルクが主張するような生物の主体性が関わるメカニズムというものはまだ見つかっていないようだ。

分子進化の中立説

分子進化の中立説も、まだよくわかっていないとも思うがなんとなく輪郭が見えてきた。自然淘汰による説明では分子の進化速度の速さと多形という観察事実に一致しない。分子レベルにおいては偶然、つまり遺伝的浮動が重要な役割を果たす。多形でいうと、例えば不利な潜性対立遺伝子がしぶとく残っているのは自然選択だけでは完全に除去することはできない。潜性の文字通り(用語変更の中で劣性→潜性が最も仕事をしている)、ヘテロ接合になってしまえば自然選択を受けることがなくなってしまうからだ。適応を生み出す自然選択の重要性は揺るがないとは思うが、”不利な潜性対立遺伝子をなくす力があるのは遺伝的浮動だけである”とあるが、そう考えると遺伝的浮動も重要な過程であることがわかる。

全体を通して

全体として、進化を巡る様々な説を人物と時系列を中心に追えるいい本だった。第2部ではがらりと変わって進化オモシロトピックを取り上げているが、1部だけでもよかったのでは、とも思った。個人的には今西進化論への批判がなかなかに強烈だったので中和剤として挿入されたと邪推している(今西錦司という国内で依然影響力の大きい人物についてもこの本で初めて知った)。

あとがきにあるように人物ダーウィンに迫る本で、人間模様がサークラっぽくてよいなという俗っぽい感想はさておき、正確なダーウィン像の把握に役立ったと思う。

 

種延真之

発達をしくじって窮乏生活してるおじさんです。最近の興味はアニメ, 心理学, 進化関係のトピック(進化生物学, 進化心理学, evo-devo), たまに思いついたようにプログラミング勉強したりします(最近はNode.js)。メモ類は→Scrapbox

 

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