初歩からの無職

NeXT時代、ジョブズは何を掴んだのか (りんご革命塾)

    今のところ何も掴めていないたねのぶです。りんご革命塾第5期・第2回はNeXT時代のジョブズをよく知り、MacやApple製品に精通しているガラパゴス・システムズの代表・佐藤徹さんが登壇しました。今回は1995年のNeXT時代のジョブズのインタビュー動画を切り口にジョブズについて勉強していきます。

    スティーブ・ジョブズ 1995 失われたインタビュー

    1995年のNeXT時代のジョブズのインタビューです。取材テープが消失し、ジョブズの死後に再び発見され映画化されたものの一部です。マスメディア嫌いのジョブズがカジュアルにインタビューに答えている貴重な資料です。ジョブズがAppleに復帰するのは1996年。これからiMacやiPod、iPhoneを作り出す前に、ジョブズは何を考えていたのかということを今回は勉強していきます。

     1995年とはどのような時代だったか

    当時のスティーブ・ジョブズ

    ジョブズはAppleIIの大成功で25歳で2億ドルの億万長者になっています。1985年にジョン・スカリーと主導権争いに敗れたジョブズはNeXTという新会社を設立。ジョブズが欲しいものは何でも手に入るほどの資産家であることと、スカリーとの主導権争いに敗れアップルを追われていたという前提は、ジョブズを知るために抑えておく必要があります。

    Windows95とインターネットの時代

    1995年はインターネットの幕開けの時代となりました。アメリカの分散型のネットワーク網は軍事攻撃に対する情報網の維持を目的とした冷戦時代の産物と言われていますが、ともかく冷戦の終結過程においてそれまで制限されていたネットワークが開放され、多くの商業ISPが誕生しました。

    インターネットの普及において、ビル・ゲイツの英断があります。Microsoft Networkというプロトコルを既に使っていたMicrosoftですが、Windows95は標準でTCP/IPが使えるように方向転換しています。インターネットはMicrosoftのコントロール下に置くことはできないと判断し、インターネットにすぐさま繋がるOSとしてWindows95はPCの地位を確立していきます。

    当時はTCP/IPの他にも、ノベル社のNetwareなど対抗馬のプロトコルは多数あり、TCP/IPよりも優秀なものも多かったようです。しかし、実際に勝利したのは○○社のというものがつかないTCP/IPでした。

    破滅へと向かうApple

    WWWの普及にいち早く対応し、爆発的にシェアを伸ばしたWindowsとは対照的に、Appleは破滅へと向かっていきます。

    当時のジョブズの製品開発に対する考え

    ジョン・スカリーの病

    私がアップル社を去った後、スカリーは深刻な病に侵された。同じ病気にかかった人を見てきたが、彼らはアイデアを出せば作業の9割は完成だと考える。そして考えを伝えさえすれば、社員が具体化してくれると思い込むんだ。

    スカリーの深刻な病とはすなわちAppleがユーザーに新しい体験をさせることを忘れたことを意味しています。彼らが重視しているのは、過去に成功したプロセスであり、製品やアイディアそのものであり、そして個人の思考プロセスなのです。

    製品開発のプロセス重視

    しかしスゴいアイディアから優れた製品を生み出すには大変な職人技の積み重ねが必要だ。それに製品を発展させる中でアイディアは変容し、成長する。細部を詰める過程で多くを学ぶし、妥協も必要になってくるからね。

    ジョブズは製品開発のプロセスを何より重要視していました。最初のアイディアから諦めずに最高の品質を目指し、メンバー全員が互いに切磋琢磨することによって、優れた製品を生み出します。

    成功を信じて突き進むチームと優秀な人材

    ズバ抜けた才能を持つ者が集まって、ぶつかり合い議論を戦わせ、ケンカして怒鳴り散らす。そうやってお互いを磨き合い、アイデアをも磨き上げて美しい石を創り出す。

    子供の頃近所に住んでいた老人の研磨機で、何の変哲もない石がけたたましい音を上げながら美しい石に仕上がるのを見たという体験が、ジョブズの情熱を持って働くチームの象徴になっているようです。

    真に優秀な人とは―― 自分が優秀だと知っているから褒めてやる必要はない。一番大事なのは仕事の内容だと分かっているんだ。だから担当するパートを確実に達成することが求められる。周囲の人間が真に優秀で頼れる人に与え得る重要な助言がある。それは彼らの出来が悪い時きちんと指摘してやることだ。理由を明確にして説明し軌道修正を促してやるのさ。

    優秀であることをお互い認め、その優秀さではなく仕事の内容(=結果)を評価することが重要だと言っています。求められる結果と最終ゴールを常に確認し、出来が悪い時はその理由を説明することが大事だと言っています。これが美しい石を仕上げるために必要な研磨という工程にあたるのでしょう。

    自分が正しいかにこだわらない

    私は自分が正しいかにこだわらないタイプでね。成功すれば何でもいい。多くの人が知ってるが、私は何かを強く主張していても反対の証拠を見た途端180度意見を変える。そんなのは構わない。実際私はよく間違うが、最後の決断が正しければいい。

    ジョブズの有名なエピソードにアイデアを否定された3日後にジョブズが自分のアイデアのように話していたという類のものがあります(ジョナサン・アイブとか特にね。)が、ジョブズの最高の製品を追求する姿勢が現れています。自己への執着とかを一切捨てているのはおそらく曹洞宗の禅の影響が強いのでしょう。

    10年後のビジョン

    ウェブの登場によって私達の夢が実現する。コンピュータが単なる計算機から脱却しコミュニケーションの手段となるんだ。それを可能にするのがウェブさ。しかもマイクロソフト社の所有じゃない。だから革新が期待できる。

    10年後、どうなっていると思う?という質問に対してジョブズは非常に正確な予測を答えました。ジョブズもビル・ゲイツもおそらくインターネットの時代が来ることは明確なビジョンとして見えていたのでしょう。マイクロソフトはいち早くTCP/IPに対応したWindows95をリリースしましたが、ジョブズ不在のAppleは対応が遅れました。

    ジョブズの考えるコンピュータ

    Computers are like a bicycle for our minds.

    子供の頃雑誌である記事を読んだんだ。様々な動物の移動効率を計測したもので… (中略) …1キロあたりの消費カロリーをヒトも含めて比較していて1位を獲得したのはコンドルだった。万物の霊長のはずのヒトは下から3分の1あたり。だが誰がひらめいたのか、自転車に乗ったヒトも測られた。コンドルなんて蹴散らしてたよ。この記事に私は強い衝撃を受けた。人間は道具を作ることによって、生まれ持った能力を劇的に増幅できるんだ。"パソコンは脳の自転車"と広告を出したことすらある。これまでの歴史を通し人類が発明したものの中で、コンピュータが一番かそれにちかい重要性を持つ。私はそう確信している。我々が生み出した史上最高の道具だよ。

    ジョブズのヒトと道具に対する考え方です。様々な動物の移動効率を研究した結果、1kmを最も効率よく移動できるのはコンドルだったのです。ヒトはとても成績が悪かった。ところがサイエンティフィック・アメリカンが自転車に乗った人間の移動効率を調べたら、コンドルをぶっちぎりで抜いてしまってダントツ1位だったわけです。ジョブズにとって、道具とは人間を拡張させるモノなのです。そしてコンピュータはmind(動画の日本語訳では脳)を拡張する道具だと言っているのです。

    上の動画でも、Computers are like a bicycle for our minds.と言っています。人間が発明した道具の中でもコンピュータは最も偉大な発明と評価し、人間のmindを運ぶ自転車だと言っています。

    コンピュータの進化の方向を見定めるテイスト

    コンピュータという最高の発明品の創成期に生まれたことをジョブズは幸運だったと言っています。初期段階で少し方向を見誤れば失敗するロケットに例え、正しい方向に動かしておけば進化していくにつれ、より良いものになると。

    方向を見定めるには?という記者の質問に対し、ジョブズは珍しく考えこみ、「テイストだよ(動画の日本語訳ではセンス)」と答えました。佐藤さんは「審美眼」という日本語が適当だろうと仰っていました。

    人類が生み出してきた優れたものに触れて自分のしていることに取り入れるんだ。優れた芸術家は真似る 偉大な芸術家は盗むさ。私たちは良いアイデアを恥じることなく盗んできた。Macが素晴らしい製品になった理由の1つは、コンピュータ科学で屈指の知識を持つ人材が音楽や詩、芸術、動物、歴史の知識も持っていたことだ。

    コンピュータの進化の正しい方向を見定める「テイスト」を育てることが、Appleのプロダクトを語る上で非常に重要な考えである「テクノロジーとリベラルアーツの交差点」という考え方につながっていきます。

    ジョブズのモチベーションはどこから来ているのか

    ジョブズのイノベーションの原動力は一体どこから来ていたのか。佐藤さんの分析を参考に考えてみます。

    自分の直感に従う

    あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。

    これはこのインタビューの10年後のスタンフォード大学でのジョブズのスピーチの一節です。個々人が身に付けるべきテイストは結局のところ「直感」というもので現れてきます。テイスト・直感を育てるためには良いモノに接するしかありません。ジョブズにおいても、彼の素晴らしいアイデアの原体験は子供の頃のものがほとんどです。

    過去の世代の考えにとらわれない

    ジョブズにおいてはヒッピー文化に強い影響を受けていました。慈愛を説いているプロテスタントがベトナムを空爆するという強烈な違和感にヒッピーは反発しました。ヒッピームーブメントが起こした世代の断絶が過去の世代にとらわれない考え方を生み出したのではないかという分析です。

    見方を変えるとアイデアの素が見える

    見方を変える方法は違う考え方の人と接することで、一番手っ取り早いのは外国人と触れることです。ジョブズもインド放浪や禅との出会いなど、様々な考え方に深く接してきました。

    世の中を良くする方法を常に考える

    でもお金が目的じゃないから重要とは思わなかった。確かに資金があれば可能性が広がる。短期間に儲けが出ない事業にも投資できたりね。だがあの時の私にとって一番大切なのは会社であり、人や自社の製品だった。

    冒頭、ジョブズは若くして有数の資産家になった話を書きましたが、彼にとってお金はそこまで重要ではありませんでした。彼にとって重要なのはコンピュータを正しく進化させ、より良いものにしていくことであり、それを実現するのがAppleでありApple製品だったわけです。ジョブズのように世の中を良くする方法を常に考えることがイノベーションの原動力となり、そして実際に世の中を良くする道具を提供したときにはじめて革命が起こると佐藤さんはおっしゃっていました。

    自分の内なる声に従い、製品に自分の思いを込めれば伝わるというのは西洋にない考えです。ジョブズの製品作りにおける重要なファクターは実は日本的なモノであるということを日本人は今一度勉強すべきなのかもしれません。

    林檎革命塾